いつからだろう、影を見つめるようになったのは?書と墨の色に魅了され、日本を愛していた私が、南半球の国、オーストラリアに移住したのは20数年前。言葉の違う国で戸惑ったことは、言葉よりも、日本とは異なる乾いた空気と澄み切った青い空、眩い光、そしてその光に描きだされる影の濃さだった。



影に興味を覚えたのは、ある夏の日に公園で見た木の影が、まるで前衛作品の書のように思えたからだ。日々の生活に追われ、書を描くことができなくなっていた私は、Art Diaryに素描を描いたり、絵のアイディアを書き込むように、筆の替わりにカメラを使い、影の写真を撮るようになった。影の写真を撮るということは、影という墨を白い紙に置くようなものかもしれない。

そんな私の書と影への思いをLuke Wong は、思いもよらなかったビデオという表現方法にカタチを変え、発表の場を与えてくれた。彼の鋭い感性で、短い時間にもかかわらず、書と影の写真をうまくコラボレイトしてくれた。わずか1分42秒のビデオだが、私にとって初めてのオンラインによる個展ともいえる。

5歳から通った書道教室で、ふと見上げた窓から入ってきた、墨の匂いの風は今も忘れられない。書は、デザインの一つであり、その表現方法は自由だと、恩師、榊獏山(さかき ばくざん)は、教えてくれた。カタチにこだわらず自由に、書の表現をこれからも探ってゆきたい。私が私らしくいるために。