2012年秋、銀座で若き書人達が集い開催された「小さな展覧会」。

前回、展覧会の作品をピックアップしてレポートいたしましたが、今回は2人の 篆刻 家にスポットをあててご紹介します。
書道に並々ならぬ情熱を持ち、中国で留学を経験。

現在では、 篆刻 家のプロとして多くのファンに印を提供しています。

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Figure 1. 松尾碩甫(まつお せきほ)氏

そんなお二人の作品を順に紹介していきたいと思います。

まず、一人目は松尾碩甫(まつお せきほ)氏。

(略歴)
2005年に大東文化大学書道学科を卒業した後、同大学院で書道学を専攻。
奨学金留学制度を使って、1年間中国で留学した経験を持つ。「中国に留学したことは有意義だった、これをきっかけに世界観が大きく変わった」と話す。
現在は、高校の書道講師として教壇に立つ傍ら、書道用品店との専属契約と個人的なネットワークで印を販売している。

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Figure 2. 「小さな展覧会」での松尾碩甫氏の作品群。

松尾氏:
「今回は、おめでたい言葉(吉語(きつご))を中心に、様々なパターンで彫りました。甲骨文字から、金文、小篆まで色々な時代の篆書を彫りました。普段は隷書、楷書、行書も彫りますが、面白さを一番発揮できるのは篆書ですので、今回は全部篆書の文字を出品しました。」

「3cm以内の小さな印であれば、実際には10分程で彫ることができますが、その前のデザインを考え決定するまでが大変で時間がかかります」
小さな面積の石にどう文字をおさめるか、篆刻家の力量が最も問われるところであるそうです。

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Figure 3. (右に彫ってあるのは、魚。「魚」は中国語の発音が「余」と同じであるため、“沢山”、“豊かな”という意味を表すために使われる。)
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Figure 4. 日利(“一日良いことがある”という意味。中央に「日利」、両端に魚を配置。ここでも発音が「魚」=「余」であることから、魚で“豊かな”という意味を表している。)
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Figure 5. 未央(”尽きない”という意味。漢時代の吉語。)

「石の色も意識して展示してあります。緑色の石は青田石(せいでんせき)。中国浙江省青田県産で硬く彫りやすい石です。白い石は巴林石(ぱりんせき)。内モンゴル地方の石です。赤い石は寿山石(じゅざんせき)。福建省産。
陶印も彫りました。木や竹根の場合は石を彫るときの印刀とは別のものを使いますが、陶印の場合は石を彫る印刀と同じもので彫れます。ただ、硬いので彫るのに非常に苦労します。」

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Figure 6. 左が陶印。右は青田石。
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Figure 7. 寿山石
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Figure 8. 大吉羊(大吉祥)
動物の模様の中に三つの輪があり、その中にそれぞれ“大”“吉”“羊”と彫ってある可愛らしい作品。
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Figure 9. 熱心に解説中の松尾氏。
印についての熱い思いを長い時間語ってくれました。

Beyond Calligraphyの読者へのメッセージ。

「中国や日本では印の存在がよく知られていますが、欧米では知っている人が少ないと思いますので、今後、海

外で個展やパフォーマンスをするなど世界で発表していきたいという夢があります。世界の方々と機会があれば積極的に交流したいと思っています。」

【連絡先】
松尾碩甫
E-mail: Daisuke Matsuo